極圧剤の腐食について
前回のブログの続きです。
前回触れたように「金属が腐食される」と聞くとマイナスなイメージしか持てないですが、この腐食というのは金属表面と反応して表面を「軟化」させ、極圧状態(すごい圧力がかかってオイルが入り込めない状態のとき)においてオイルに代わって「潤滑」させて、焼き付きを防止しているようです。
なので腐食は確かに嫌ですが、いざという時にブローする方が嫌なので、どっちを良しとするかなのかと思われます。
そこで腐食は「悪」ではなく、ある程度までは「正」として見るとしても、どの程度腐食が進んでしまうのか気になったので調べてみました。
今回取り上げる塩素系の添加剤であるベルハンマーの販売元であるスズキ機工から銅に対する
腐食テストがおこなわれている結果が示されています。
「腐食ではなく鍛えられています」と記載されていますね。
鍛えられているかどうかは(?)ですが、本当に腐食が進まないのか「ちょっと怪しい」と思って文献を調べてみると、出光興産から
金属腐食に関する論文が公開されています。
この論文の中で出てくる添加剤の中では塩素化パラフィンが該当するのかと思われますが、超極圧領域(境界潤滑領域)では他の添加剤に比べて摩擦が高くなってしまっていますね。腐食に関しては、スズキ機工が公開しているとおり銅に対する腐食については論文内では触れられていないですね。(銅も実験していることから、結果として銅に対してはそこまで腐食反応が無かったのかもしれません。)
一方でホワイトメタル(ミッション等のギアやシャフト本体によく使われている金属)への腐食が認められますね。
とは言っても100℃以下の低温では、どの金属においても腐食はほぼ無いようですので、街乗り程度では腐食の進行についてはほぼ考えなくて良さそうです。
気になる点としては実験における塩化パラフィンの添加量は 他の添加剤に比べて多め(10%で実験している)なことですね。2%以下の少ない添加量だと腐食度合いに差がないということなのでしょうか。(逆に現在のデフオイルによく入っているジアルキルジチオリン酸亜鉛は少量でもアルミに対する腐食が出てしまっています。)
また興味を持った点として、塩素化パラフィンのみ摩擦の特性が、400℃以下であれば一番低いという点でしょうか。(逆に400℃を超えるような超極圧状態では他の添加剤に分があるようです)
これを見る限り、そこまで高温にならない環境下及び極端な極圧状態でなければ塩素はコストも含めて優秀な極圧剤のように受け取れます。
ただ調べを進めていくと塩素化パラフィンというのは極圧剤として優れている一方、発がん性があったり焼却処理が大変なことから、環境問題的に大手メーカーは使いたくても使うことができないのだとか。
なので代わりに使われているのが、アルミに対して腐食があっても文献にも出てくるジアルキルジチオリン酸亜鉛などだそうで。(銅も腐食させてしまうようですが真偽は定かでない)
どの極圧剤にしろ何かしらデメリットがありますが、加えないわけにはいかないので添加量(%)を少なめにし、腐食防止剤等を配合することでデメリットを抑えつつ、メリットを享受しているのかもしれませんね。
現在販売されているデフオイル(LSDオイル)に添加されている極圧剤は上記のジアルキルジチオリン酸亜鉛のような金属系が多いそうですが、真偽は自分が調べる限り定かではないですが、ミッションのシンクロに使われている真鍮(銅)を腐食させてしまうことがあるらしく、純正指定のミッションオイルは添加剤(極圧剤)の量が少ないGL-3やGL-4が多いです。
特にFRのようにミッション内にハイポイドギアを持たなければ極圧剤の多いGL-5よりは配合の少ないGL-3やGL-4の方がよさそうですね。(ドリフト等で瞬間的に激力がかかるような動きをするのであればギア本体の保護的にGL-5の方が良いのかも)
オイルメーカーは勿論このあたりは承知の上で腐食防止剤等を配合しているでしょうからそこまで心配する必要もないかもしれませんが、
以前のブログでも触れたようにFF系のLSDが入ったミッションはシンクロが早くダメになる気がするのは極圧剤のせいなのかもしれませんね。(LSDを入れる方は一般的に使い方が激しいですし、LSDの金属粉が出やすいからかもしれませんが。。。)
てな感じで塩素系は環境にはよくないが、極圧剤としてはホワイトメタルへの腐食があるが400℃以下で添加量を少なく、超極圧箇所でなければコスト面を含め総合的にはそこそこ優秀。現代においては広く使われている硫黄系もアルミ等への腐食が懸念事項としてはあるようですが、環境と超極圧領域においては優秀な極圧剤のようですね。
(販売元のスズキ機工に
聞いてみました。)
これらを踏まえて市販オイルは極圧剤と腐食防止剤や酸化防止剤等をバランスしているでしょうから、いくら「オイルに影響がない」と謳っている添加剤・極圧剤・エンジンコーティング剤と言われる物でも、個人で添加はしない方がよいのでしょう。
ここまで書いといてあれですが、前回のブログで取り上げたオイルメーカーの方のコメントでも「高負荷でなければ軽くなったように感じる」と書いてあったのもあったので、ものは試しで塩素系の添加剤を街乗り車に入れて
実験してみようかと思います。
他の記事をお読みになりたい方は↓の関連ページ等をご参照ください。
Does Chlorinated paraffin put in engine oil have meaning?? Is it good for metal surface??
https://outlaw-atsu.blogspot.com/2019/02/Chloroparaffin.htmlベルハンマー(ナスカルブ)等の塩素による腐食について