前回に引続き、タイヤについての考察です。
今回はタイヤは太ければコーナーが速い(CFが得られる)のか、また縦方向のグリップはどうすれば良くなるのかについて、です。
・太いタイヤは横力に対抗できる?前回までの考察だとタイヤを太くしても接地面の縦横比が変わるだけで接地面積が変わらない条件で考えてきました。ところが実際は若干変化(面積が拡大)します。
面積が増えるとなぜ速いコーナリングができるのか。
その答えが
ここのHP様の「タイヤを太くすると何故グリップが上がるのか」を見てもらうと分かります。
このHP様の結論は太くすると最大荷重時の摩擦限界が高くなると言うことです。
太くすると赤い所まで限界が上がる。(
自動車を物理する 様より)
300kgぐらいまでの荷重では細いタイヤも太いタイヤも比例的にグリップがあがりますが、そこから先の限界の伸び具合に差が生じます。つまりこのグラフで用いたタイヤで行くと、仮に荷重移動したとしても片輪に300kgしか掛からない車であれば細いタイヤだろうが太いタイヤだろうが一緒なワケです。
逆に太いタイヤを履かせた場合、バネ下重量が重くなるし、走行抵抗増えるし・・・なにより値段が高くなるのでマイナスしかないわけです。
また補足として前回説明したように空気の働きだけを見ると、サイドウォールの厚みが高い方が剛性が高いという理論が成り立ち、トレッド面全体が偏心しやすくなる(タイヤを正面から見たときにトレッド面がホイールセンターからずれる現象)のですが、単にサイドウォールの「ヨレ」だけみると、ゴムなので横からの力がかかった時の変形が大きく、ある程度はサイドウォールを薄くした方がCPが得られるという工学書の実験結果が乗っていました。
また横幅を広くしたときのグリップに関しての補足説明としては、金属やゴムなどの表面は一見平らに見えてもミクロの目で見ると凹凸があって、目で見えている接地面積と、実際に地面にタイヤが触れている真実接地面積は違います。
「車両運動性能とシャシーメカニズム」の図2-66より
実際地面と接している面積は見かけの接地面積、世間一般的に「ハガキ一枚分の面積」よりも少ないという事実があります。
細かいことは省略しますが、ゴムを柔らかくすると地面の凹凸に沿ってゴムが変形するので、真実接地面積が広がり摩擦力が上がるというからくりになっているのですが、真実接地面積も前回の「横滑り角とコーナリングフォース」の図のように、面積と摩擦力が比例関係にあるのは初期だけで面積が大きく(タイヤでいうと温度が上がったりして柔らかくなる)っても、それ以上は摩擦が上がらなくなります。つまり上のHP様のようにある程度まで荷重を掛けるとそれ以上限界は上がらなくなります。
よって熱が入らなくても最初から柔らかいSタイヤはいきなりタイムが出ますし、熱が入りすぎてもグリップが上がらない(タレる)症状が出てくるわけですね。
以上説明してきた摩擦力は接触している物同士の表面の分子の間に引き合う力が働いており、滑らせようとすると「分子間力によるせん断抵抗力」が発生するために生じる現象でした。
しかし摩擦力を生じさせるにはもう一つ「変形損失摩擦力」というのがあります。
これは凹凸のある路面の上を走ればゴムの接触部分は変形と復元を連続して発生し、運動エネルギーが消費されることによって生じる摩擦力です。
つまり縦方向に柔らかくて粘り気のある(ヒステリシスロスの大きい)タイヤであれば得やすい物になります。
具体的にどういうものか考えを進めてみました。
・ゼロ発進におけるタワみの極み今まで横向きの力に対してどの位タイヤが耐えれるか見てきましたが、この摩擦力(ヒステリシスロス等によって生じるもの)は主に縦向きの力に対してどうかと考えて良いと思います。
即ちサイドターンやゼロ発進時に、どんなタイヤがどの様な特性を持つかと言う事です。
タイヤの地面に触れている所は、外径に対してある一定の割合で潰れて平らになります。(例えば上図の接地長は仮に直径640mmのタイヤの3%とすると60.23mmとなります。もちろん空気圧が一定の場合で考えます。)
接地長というのは細いタイヤの方が長くなるのは前回の通りですが、接地長のタイヤ外径に対するパーセンテージは同じ銘柄、同じ荷重の場合あまり変わらないらしいので大きい外径のタイヤの方が接地長を稼げます。(上の条件だと640mmのタイヤだと60.23mmですが、650mmのタイヤの場合61.23mmになるわけですね。ただ実際は勿論この通りに3%のままではなく、2.998%とかに減るとは思いますが。)
と言うことで同じ太さのタイヤでも外形サイズが大きい方がより接地面を稼げるわけです。軽自動車とGT-Rじゃタイヤ幅も違いますがそもそも外形サイズが全然違うのは接地面積と内空気量を確保するためのようです。
コレを生かした極端な例で言うと、ゼロ発進を重視するドラッグレースカーが太くて外径が大きなタイヤを履いてます。
彼らはヒステリシスロスを最大限に発揮させるためホイールは出来るだけ小さくしてハイプロファイリングなタイヤを履いています。これは縦方向にタワむゴムの領域を広く取ることで、発進時の荷重が掛かった瞬間に縦方向にタワみやすくなり接地長が伸びる=接地面積が増えるようにしているみたいです。
ただ注意しなければならないのは接地長が長くなるとステアレスポンスが落ちますので後輪には良いかもですが、前輪につけるのは??
ということでタイヤを太くしたり大きくすることは確かに速く走る上で効果があるようですが、縦横両方のことを考えると無限に太く&大きくすれば良いわけではなくバランスなワケです。
これらの理論の延長線上に、サーキットを走るハードなチューニングカーではサイクルフェンダーとかにしてタイヤハウスを広げ、太くて大きな薄いタイヤを入れ込んで接地面積を広げ、縦にも横にも限界を上げているのでしょう。。。が、一般的な公道を走る車や公認競技に参戦するのであればそこまでできませんよね・・・ってことで
結論
普通にスポーツ走行をするには
太くてもダメ、細くてもダメ。ちょうど良いあんばいが一番いい。
前ホイールを18インチにしてステアレスポンスを、後ろを17インチにしてスタートダッシュを得ると言うSUPER GTがよくやっているセッティングもこれらの理論から「アリ」と判断できるわけです。
ただ一般車競技をする上でタイヤの太さ、大きさなんて同じ車種、同じクラスであれば大体一緒ですし、銘柄まで一緒なことが多いのでアドバンテージにはならないですが。。。
じゃあどうすれば良いかと前のブログに書いたホイールサイズを変更してあげるか、タイヤを上手く使いきれる線形内に収まるよう「荷重移動を少なく」して、4輪へ均等に仕事させるようにすれば効率よく車全体でCPが得られることになります。
荷重移動を少なくするにはトレッド、重心、重量などを考えればいいのですが非常にメンドクサイのでまたいずれってか上記のHP様に詳細に載っているのでそちらをご覧下さい。
GT、F1などは上記の「トレッド、重心、重量」どれを見ても「広い、低い、軽い」を追求している所からもその重要さが伺えます。またそれに伴ってアームの構造も素晴らしいですよね。
タイヤの構造からくる大まかな特性をまとめたシリーズでした。次のブログでは続いて上記の考察に基づいた実験の結果、体感について記載していきたいと思います。
他の記事をお読みになりたい方はサイトマップや↓の検索・ラベル等からご参照ください
https://outlaw-atsu.blogspot.com/2022/05/blog-post_24.htmlタイヤのグリップについて考察3